言葉には、不思議な力があります。たった一言に励まされ、もう一度頑張ってみようと思うことがあります。反対に、何気なく言われた一言が、いつまでも心に残ることもあります。言った本人はとうに忘れているのに、言われた側は何年経っても覚えている。それほど、言葉は人の心に深く入り込むものなのでしょう。前回のブログでは、部下の小さな変化に気づき、それを言葉にして本人へ返すことの大切さについて考えました。
「最近、変わってきたね」
「ここ、以前より良くなったね」
そんな一言によって、本人も気づいていなかった自分自身の成長に気づくことがあります。だからこそ、気づいたことは心の中にしまっておかず、言葉にして届けたい。しかし、ここでもう一つ考えてみたいことがあります。では、どんな言葉を届ければよいのでしょうか。相手のことを深く思い、日頃から成長を願っていたとしても、その想いと言葉が少しずれてしまえば、意図した通りには伝わりません。
励ましたつもりが、プレッシャーになってしまう。
背中を押したつもりが、急かされているように感じさせてしまう。
良かれと思ってした助言が、「自分のやり方を否定された」と受け取られてしまう。
人と人との間では、そんなことが少なからず起こります。特に、まだ十分な信頼関係ができていない時ほど、一つの言葉が持つ意味は大きくなります。「期待しているよ」という一言でさえ、信頼する上司から言われれば励みになり、まだ関係のできていない上司から言われれば、
「何を期待されているのだろう」
「もっと成果を出せという意味だろうか」
と受け取られることもあるでしょう。では、誤解されないように、無難な言葉だけを選べばよいのでしょうか。私は、それも少し違うように思います。
誰も傷つけないように。
嫌われないように。
間違って受け取られないように。
そう考えて言葉をオブラートで包み続ければ、今度は本当に伝えたかった想いまで薄くなってしまいます。人を思うからこそ、伝えたいことがあります。時には、少し耳の痛いこともあるでしょう。そして、本当に大切なことほど、声をかける側にも勇気が必要なのかもしれません。だから私は、「何と言えば正解なのか」だけを考えすぎなくてもよいと思います。
それよりも、その言葉を発する前に、自分自身に問いかけてみる。
「私は、この人に何を伝えたいのだろう。」
成長してほしいのか。自信を持ってほしいのか。あなたの努力を見ていると伝えたいのか。失敗しても大丈夫だから挑戦してほしいのか。あるいは、本当に大切なことだからこそ、今ここで気づいてほしいのか。そこにある想いが自分の中ではっきりしていれば、たとえ一度でうまく伝わらなかったとしても、また言葉を変えて届けることができます。
今日、届かなければ、また別の日に。この言い方で伝わらなければ、別の切り口から。けれど、根底にある想いだけは変えない。言葉は変えても、想いの軸はぶらさない。そんな関わりを続けているうちに、いつか相手にも、「この人は、本当に自分のことを考えて言ってくれているのかもしれない」と伝わる時が来るのではないでしょうか。信頼とは、一度の素晴らしい言葉によって生まれるものではないと思います。
日頃から相手を見る。小さな変化に気づく。勇気を持って声をかける。うまく伝わらなくても、また向き合う。その積み重ねによって、少しずつ育っていくものなのでしょう。だからこそ、一言を大切にしたい。しかし、一言一言に怯える必要もない。大切なのは、上手な言葉を探すこと以上に、その言葉の奥にある想いを、自分自身が見失わないことなのだと思います。言葉より先に、想いがある。
本稿では、部下に言葉を届けるという行為を通して、言葉の選び方だけではなく、その奥にある相手への想い、伝える勇気、そして言葉を重ねながら信頼を育てていくことについて考えてみたいと思います。
その一言は、自分の正しさを分かってもらうための言葉なのか。それとも、その人の可能性を信じて届ける言葉なのか。
同じ一言でも、その違いはきっと、相手に伝わっていくのだと思います。

【目次】
1.同じ言葉でも、届き方は違う
2.「何を言うか」より、「なぜ言うか」
3.大切な一言ほど、勇気がいる
4.「一度で伝わる」を求めない
5.言葉の積み重ねが、信頼の意味を変えていく
6.言葉より先に、想いがある
1.同じ言葉でも、届き方は違う
「期待しているよ」
部下にかける言葉として、決して悪い言葉ではありません。しかし、この一言を聞いて、「よし、頑張ろう」と思う人もいれば、「もっと成果を出せということだろうか」とプレッシャーを感じる人もいるでしょう。
なぜ、同じ言葉なのに受け止め方が違うのでしょうか。一つには、その人自身の価値観や置かれている状況があります。そして、もう一つ大きいのが、それまでにつくられてきた二人の関係性なのだと思います。
日頃から自分のことを見てくれている。
困った時には話を聴いてくれる。
失敗しても、頭ごなしに否定しない。
そんな上司から「期待しているよ」と言われれば、「自分を信じてくれているんだ」と感じるかもしれません。反対に、普段ほとんど会話もなく、成果だけを求められていると感じている上司から同じことを言われれば、まったく違った意味に聞こえることもあります。つまり、言葉には、その一言だけが乗っているのではありません。それまでの関係性も一緒に乗っている。だからこそ、「どんな言葉を使えば部下のやる気が出るのか」と、言葉だけを探しても答えは見つからないのかもしれません。
言葉を選ぶ前に、「自分とこの人との間には、今どんな関係があるのだろう」と考える。そこから始めることが大切なのだと思います。
2.「何を言うか」より、「なぜ言うか」
部下に何かを伝えようとする時、私たちは言い方を考えます。
「こう言ったら傷つくだろうか」
「もう少し柔らかく言った方がいいだろうか」
「どう言えばやる気になってくれるだろう」
もちろん、言葉選びは大切です。相手の性格や置かれた状況を考え、伝え方を工夫することも必要でしょう。しかし、その前に自分自身へ問いかけてみたいことがあります。
「私は、なぜこの言葉を伝えようとしているのだろう。」
自分の指示通りに動いてほしいからなのか。自分の正しさを理解してほしいからなのか。上司として何か言わなければならないと思っているからなのか。それとも、この人には、もっと可能性があると思うからなのか。頑張っていることを、ちゃんと見ていると伝えたいからなのか。失敗を恐れず、もう一歩踏み出してほしいからなのか。
同じ言葉でも、その根にある想いは違います。そして不思議なもので、言葉の奥にあるものは、何となく相手にも伝わってしまうものです。だから、上手な言葉を探す前に、自分の中にある想いを確認する。
「これは、自分のために言う言葉なのか。それとも、本当に相手のために言う言葉なのか。」
その問いを持つだけでも、一言の質は変わってくるように思います。
3.大切な一言ほど、勇気がいる
相手のことを本当に思えば思うほど、言葉にすることが難しくなる時があります。前回のブログでは、部下の小さな変化に気づいたら、言葉にして返すことが大切だと書きました。しかし、実際には、「今さら言うのも照れくさいな」「急にそんなことを言ったら、どう思われるだろう」と躊躇することもあります。まして、相手のためにどうしても伝えなければならない、少し耳の痛い話ならなおさらです。
本当に言った方がいいのだろうか。
嫌われないだろうか。
関係が悪くならないだろうか。
そんな不安が出てきます。しかし、相手を思っているのに、「きっと分かってくれるだろう」と心の中にしまってしまえば、その想いは存在しないのと同じになってしまうこともあります。だからこそ、時には勇気を持って声をかける。ただし、ここで大切なのは、勇気と独りよがりを混同しないことです。「あなたのためを思って言っている」という言葉ほど、使い方を間違えると、自分の価値観を押しつける免罪符にもなります。だからこそ、
「本当に相手のためなのか」
「自分の正しさを証明したいだけではないか」
と、一度自分自身に問いかける。それでも伝えるべきだと思えたのなら、勇気を持って言葉にする。相手の可能性を信じることには、時として、言葉を届ける覚悟も必要なのだと思います。
4.「一度で伝わる」を求めない
勇気を出して言葉を届けた。ところが、相手の反応は思ったものとは違った。
そんなこともあります。こちらは一生懸命考えて伝えたのに、「分かりました」の一言で終わってしまう。あるいは、少し不満そうな表情をされる。そんな時、「せっかく言ってあげたのに」と思いたくなることもあるでしょう。しかし、それでは主語が自分になってしまいます。大切なのは、「言ったかどうか」ではなく、「どう届いたか」ではないでしょうか。
人には、それぞれ受け取れるタイミングがあります。今は分からなくても、半年後に「あの時の言葉はこういう意味だったのか」と気づくこともあります。また、こちらの言葉が足りなかったのかもしれません。だから、一度で伝わらなくてもいい。言葉を変える。切り口を変える。少し時間を置く。相手の話をもう一度聴く。そして、また伝える。ただし、根底にある想いは変えない。
言葉は変えても、想いの軸はぶらさない。
「前にも言ったよね」で終わらせるのではなく、「自分の言葉は、この人にどう届いたのだろう」と考えてみる。それもまた、相手と向き合うということなのだと思います。
5.言葉の積み重ねが、信頼の意味を変えていく
信頼関係がまだ十分にできていない時には、どれだけ良かれと思って発した言葉でも、違う意味に受け取られることがあります。それは、ある意味では仕方のないことです。信頼は、「今日から私を信頼してください」と言って生まれるものではありません。日々の小さな関わりの中で、少しずつつくられていくものだからです。
昨日、困っている時に話を聴いてくれた。今日、小さな変化に気づいて声をかけてくれた。失敗した時にも、まず理由を聴いてくれた。以前話したことを覚えていてくれた。
そんな一つひとつが積み重なっていく。すると、いつしか言葉の受け止め方が変わってきます。
以前なら、「なぜ、そんなことを言われなければならないのか」と思った言葉も、「この人が言うのなら、少し考えてみよう」と思えるようになる。さらに関係が深まれば、「きっと自分のことを考えて言ってくれているのだろう」と、言葉の向こう側にある想いまで想像できるようになる。
私は、そこに本当の信頼関係の一つの姿があるように思います。信頼とは、いつも優しい言葉をかけてもらえる関係ではありません。時には耳の痛いことでも、「この人は自分を否定するために言っているのではない」と思える関係。そこまでの信頼ができれば、人と人との対話はもっと深いものになっていくのではないでしょうか。
6.言葉より先に、想いがある
良い組織をつくろうとすると、私たちは仕組みを考えます。評価制度を変える。面談を増やす。コミュニケーションの機会をつくる。どれも大切です。しかし、どれほど立派な仕組みがあっても、そこにいる人たちの言葉に想いがなければ、本当の信頼関係は生まれにくいのではないでしょうか。反対に、「最近、どう?」「ここ、変わってきたね」「あなたはどう思う?」「困ったら相談して」そんな短い言葉でも、そこに本当の関心があれば、人の心に残ります。ただし、もう一つ忘れてはいけないことがあります。言葉の後ろには、行動があるということです。
「任せるよ」と言いながら、毎日のように細かく口を出す。「失敗してもいいから挑戦して」と言いながら、失敗すると責める。「何でも相談して」と言いながら、話しかけられると面倒そうな顔をする。これでは、どれだけ素晴らしい言葉を使っても、相手は言葉ではなく行動の方を信じます。だから、
言葉より先に、想いがある。そして、言葉の後ろには、行動がある。
想いと言葉と行動がつながって初めて、一言に重みが生まれるのだと思います。私たち共創ソリューションズも、お客様に対して「正しい言葉」を届けることだけを目指したくはありません。まず、相手の話を聴く。その会社が何を大切にしているのかを知る。経営者が何に悩み、社員が何を感じているのかを考える。そのうえで、必要だと思う言葉を届ける。時には、耳の痛いことをお伝えすることもあるでしょう。一度では伝わらないこともあるでしょうそれでも、言い方や切り口を変えながら、想いの軸をぶらさず対話を続けていく。それが「共に創る」ために必要な関係なのだと思います。
人を動かす魔法の言葉など、きっとありません。その人に何が響くかも、簡単には分かりません。だからこそ、言葉の技術だけに頼るのではなく、まず相手を見る。相手を知る。相手の可能性を信じる。そして、自分自身に問う。
「私は、この人に何を届けたいのだろう。」
そこから生まれた一言だからこそ、人の心に届く可能性があるのではないでしょうか。
人の心を動かすのは、うまい言葉ではなく、その一言を本物にしてきた日々の在り方なのだと思います。
人に何かを伝えることは、本当に難しいものです。こちらがどれほど相手を思って発した言葉でも、そのままの形で相手に届くとは限りません。育ってきた環境も違う。経験してきたことも違う。大切にしている価値観も違う。そして、その時の心の状態も違います。そして、その時の心の状態も違います。そう考えれば、むしろ、「一度で伝わらなくて当たり前」くらいに思っていた方がよいのかもしれません。伝わらなかったからといって、相手が悪いわけではありません。もちろん、自分が悪いわけでもありません。ただ、今の言葉では届かなかった。それだけなのだと思います。ならば、また考えればいい。言葉を変えてみる。違う角度から話してみる。時には、何も言わずに待ってみる。そして、相手の話をもう一度聴いてみる。大切なのは、伝え方を変えても、根底にある想いまで変えないことです。
「この人には成長してほしい」
「この人には、もっと可能性があると思う」
「困った時には力になりたい」
そんな想いが自分の中にあるのなら、焦らず、何度でも向き合えばいいのではないでしょうか。一方で、気をつけたいこともあります。
「こんなに思っているのだから、分かってほしい」
そう思った瞬間、想いは少しずつ期待へと変わります。そして、「なぜ分かってくれないのだろう」となれば、いつの間にか相手のためだったはずの言葉が、自分のための言葉になってしまいます。だからこそ、伝える側にも余白が必要なのだと思います。
伝える。でも、答えは相手に委ねる。
自分の言葉をどう受け止めるか。いつ受け止めるか。そして、その言葉をどう生かすか。最後に決めるのは、相手です。それでも、言葉を届ける意味はあります。今日伝えた一言が、今日その人を変える必要はありません。その時には響かなかった言葉が、半年後、あるいは何年か後になって、「あの人が言っていたのは、こういうことだったのか」と腑に落ちることもあります。私たち自身にも、そんな経験があるのではないでしょうか。
若い頃には何とも思わなかった言葉。少し反発さえ覚えた言葉。しかし、自分自身が経験を重ねたことで、ようやくその意味が分かる。言葉にも、芽を出す時があるのだと思います。だから、急いで掘り返さなくていい。伝えた翌日に、「分かってくれただろうか」と確かめなくてもいい。想いを込めて言葉を届けたのなら、あとは相手の中で育つ時間を信じてみる。これは、これまで考えてきた「信じて待つ」ということにも、どこか似ています。
人の成長を待つように、言葉が届くまでの時間も待つ。そして、その間も普段通りに相手を見る。小さな変化に気づく。必要な時には声をかける。言っていることと、やっていることを一致させる。そうした毎日の積み重ねによって、以前伝えた一言の意味まで、少しずつ変わっていくのかもしれません。最初は、「なぜこんなことを言うのだろう」だったものが、「もしかすると、自分のことを考えてくれているのかもしれない」に変わる。そしていつか、「あの人は、ずっと自分のことを見てくれていたんだ」と気づく。私は、そこまでいって初めて、本当の意味で言葉が届いたと言えるのかもしれないと思います。
信頼は、一度の素晴らしい言葉で生まれるものではありません。小さな一言。小さな行動。小さな気遣い。それを、今日も一つ。明日も一つ。派手ではなくても、コツコツと積み重ねていく。その先に、「この人の言葉なら、少し耳を傾けてみよう」という関係が生まれる。それが信頼なのではないでしょうか。
私たち共創ソリューションズも、すぐに答えを出し、相手を変える存在でありたいとは思いません。まず聴く。一緒に考える。必要な言葉を届ける。伝わらなければ、また考える。そして、焦らず関係を積み重ねていく。その繰り返しの中から、お互いに納得できる答えを一緒につくっていきたいと思います。
言葉より先に、想いがある。そして、言葉の後ろには、日々の行動がある。その二つに支えられて初めて、一言は少しずつ重みを持っていくのでしょう。だから、完璧な一言を探さなくてもいい。うまく伝えようとしすぎなくてもいい。ただ、「この人に何を届けたいのか」という想いだけは、丁寧に自分自身へ問い続けたいものです。そして、想いがあるのなら、勇気を持って言葉にする。伝わらなければ、また届ける。それでも伝わらなければ、少し待つ。そしてまた、相手を見る。そんな繰り返しでいいのだと思います。
人を育てることに近道がないように、信頼を育てることにも近道はありません。一言を大切にする。一度で伝わることを求めない。それでも、伝えることを諦めない。その静かな積み重ねが、いつの日か、「あなたが言ってくれたから」という一言になって、自分のところへ返ってくることがあるのかもしれません。その時まで、焦らず、コツコツと。相手の可能性と、自分の想いの両方を信じながら、言葉を届け続けていきたいものです。
