「任せる」と「放っておく」は、よく似ているようで、まったく違います。
部下を信じて仕事を任せる。
自分で考える時間を与え、すぐに答えを教えず、時には失敗することさえ受け入れながら、その成長を待つ。
これまでのブログでも、そんな「信じて待つこと」の大切さについて考えてきました。しかし、ここで一つ忘れてはいけないことがあります。待つことは、見ないことではありません。むしろ、口を出さないからこそ、これまで以上によく見る必要があるのではないでしょうか。人の成長は、いつも分かりやすく現れるとは限りません。
大きな成果を出した。
仕事が急に速くなった。
目標を達成した。
そんな変化であれば、誰にでも気づくことができます。けれど、本当の成長は、もっと小さなところから始まっているのかもしれません。
以前ならすぐに質問していた人が、自分なりの考えを持ってから相談に来るようになった。
報告の中に、自分だけでなく周囲への配慮が感じられるようになった。
失敗した時、言い訳をする前に「自分にも原因があった」と振り返るようになった。
会議で、これまでとは少し違う意見を口にするようになった。
どれも、数字には表れない小さな変化です。そして本人自身も、その変化に気づいていないことがあります。人は毎日、自分自身と一緒に生きています。だからこそ、少しずつ変わっている自分には、案外気づかないものです。
そんな時、近くで見ていた上司から、「最近、相談の仕方が少し変わったね」「前より周りを見るようになった気がするけど、何か意識している?」と声をかけられたらどうでしょう。「そうですか?」と答えながらも、初めて自分自身の変化に気づくかもしれません。そして、「ちゃんと見てくれていたんだ」という小さな安心感も生まれるのではないでしょうか。認めるとは、必ずしも褒めることではないと思います。
「よくできた」「素晴らしい」と評価するだけではなく、「ここが変わってきたね」と、相手自身もまだ気づいていない変化を言葉にして返す。そして、「どうして変えてみようと思ったの?」と尋ねてみる。そこから対話が始まります。上司が気づいた変化と、部下がその時考えていたことを、お互いに言葉にして確かめ合う。時には、上司の考えていた方法とは違うかもしれません。けれど、違うからといって間違いとは限りません。その違いの中に、その人なりの工夫や価値観、そしてこれから育っていくオリジナリティが隠れていることもあります。だからこそ、すぐに評価するのではなく、まず聴いてみる。それもまた、「認める」ということなのだと思います。
信じて任せる。
必要以上に口を出さない。
けれど、決して目は離さない。
そして、小さな変化を見つけたら、それを言葉にして本人へ返す。
その一つひとつは、ほんの短い会話かもしれません。しかし、「自分のことを見てくれている」という実感の積み重ねが、やがて上司と部下との間に、大きな信頼を育てていくのではないでしょうか。
見守るとは、変化を見つけることである。
本稿では、「信じて待つ」ことのもう一つ先にある、人の小さな変化に気づき、それを認め、言葉にして返すことの意味について考えてみたいと思います。
そして、それは部下を育てるためだけではなく、上司自身が「人を見る力」を育てることにもつながっていくのだと思います。

【目次】
1.「任せる」と「放置する」は違う
2.大きな成果より、小さな変化を見る
3.気づいた変化を「言葉にして返す」
4.「認める」の先に、対話をつくる
5.「違い」を間違いにしない
6.「見てくれている」が、信頼を育てる
1.「任せる」と「放置する」は違う
これまでのブログでは、部下の可能性を信じ、あえて口を出さずに待つことの大切さについて考えてきました。しかし、「任せる」という言葉は、時として「何も言わない」「本人に好きなようにやらせる」という意味に捉えられることがあります。私は、任せることと放置することは、まったく違うと思っています。
任せるからこそ、見る。
口を出さないからこそ、気を配る。
困った時には手を差し伸べられる距離にいながら、自分で考え、自分で歩く時間を大切にする。
ここで重要なのは、「管理するために見る」のではなく、「理解するために見る」ということです。
「予定通り進んでいるか」
「間違っていないか」
「指示した通りにやっているか」
という視点だけで見ていると、どうしても監視に近くなります。そうではなく、
「何を考えているのだろう」
「何か困っていることはないだろうか」
「以前と比べて、どこか変わってきただろうか」
という眼差しで見る。同じ「見る」という行為でも、その目的によって相手の受け止め方は大きく変わります。見守るとは、距離を置くことではありません。相手の可能性を信じながら、適切な距離から関心を持ち続けることなのだと思います。
2.大きな成果より、小さな変化を見る
企業活動では、どうしても成果が求められます。
売上はいくら上がったのか。
目標を達成できたのか。
仕事は速くなったのか。
ミスは減ったのか。
もちろん、こうした結果を見ることは必要です。しかし、人の成長という視点で考えると、それだけでは見えないものがあります。
以前なら何も考えずに質問していた人が、「私はこう考えたのですが、どうでしょうか」と、自分の意見を添えるようになった。
失敗した時、「〇〇さんに言われた通りにやったので」と言っていた人が、「自分の確認が足りませんでした」と言うようになった。
会議でほとんど発言しなかった人が、小さな意見を口にするようになった。
自分の仕事だけを見ていた人が、忙しそうな同僚に声をかけるようになった。
どれも、会社の業績をすぐに大きく変えるような出来事ではありません。
けれど、私はこうした小さな変化こそ、大切にしたいと思います。なぜなら、それはその人の内側で何かが変わり始めた兆しだからです。大きな成果が出てから気づくのではなく、そのずっと手前にある小さな変化に気づく。そこに、人を育てる側の大切な役割があるのではないでしょうか。
3.気づいた変化を「言葉にして返す」
ところが、自分自身の変化というものは、案外自分では分からないものです。毎日少しずつ変わっているからこそ、本人にとっては、それが当たり前になっています。だからこそ、近くで見ている人が、
「最近、相談の仕方が変わってきたね」
「以前より、周りを見るようになったね」
「この前と比べると、ずいぶん自分の意見を言うようになったね」
と、言葉にして返してあげる。すると初めて、「自分は変わってきているのかもしれない」と本人が気づくことがあります。ここで私は、「褒める」と「認める」は少し違うものだと思っています。
「素晴らしい」
「よくできた」
という言葉も、もちろん大切です。しかし、それだけでは上司の評価で終わってしまうことがあります。一方、
「ここが以前と変わってきたね」
という言葉は、本人の変化そのものに光を当てます。上司が見つけた変化を、言葉にして本人へ返す。それは、鏡を差し出すことに似ているのかもしれません。
自分では見ることのできなかった自分の姿を、誰かの言葉を通して初めて見る。
認めるとは、相手の中に生まれた変化を、言葉という鏡に映して返すこと。
そんな役割もあるように思います。
4.「認める」の先に、対話をつくる
そして私は、そこで会話を終わらせないことも大切だと思います。
「最近、報告の仕方が変わったね」
その後に、
「何か意識して変えてみたの?」
と聞いてみる。
すると、部下は自分自身の行動を振り返ります。
「前回、説明が分かりにくいと言われたので……」
「〇〇さんの報告を聞いていて、いいなと思ったので……」
「自分なりに整理してから話した方がいいと思って……」
そんな答えが返ってくるかもしれません。ここが、とても大切です。上司から認められるだけで終わるのではなく、本人自身が「なぜ自分は変わったのか」を言葉にする。それによって、無意識だった変化が、本人にとって意味のある経験に変わっていきます。そして上司もまた、「なるほど、そんなことを考えていたのか」と、部下の内面を知ることができます。
認める → 問う → 聴く → 一緒に考える。
ほんの数分の会話かもしれません。しかし、この小さな対話の積み重ねが、人の成長をさらに促していくのだと思います。認めることは、会話の終点ではありません。対話の入り口なのです。
5.「違い」を間違いにしない
部下の話を聴いていると、自分とは違う考え方に出会うことがあります。「なぜ、そんなやり方をしたのだろう」と思うこともあるでしょう。
経験のある上司には、自分なりのセオリーがあります。過去の成功や失敗から学び、自分なりの仕事の進め方をつくってきたからです。しかし、前回のブログでも考えたように、それもまた自分自身の経験から生まれた一つの答えです。
部下には、部下の経験があります。違う感性があります。違う価値観があります。
だから、違う答えが出てくるのは、むしろ自然なことではないでしょうか。そこで、「それは違う」とすぐに修正するのではなく、「なぜ、そう考えたの?」と一度聴いてみる。
すると、その違いの中に、自分にはなかった発想が見つかることがあります。もちろん、仕事ですから明らかな間違いや大きなリスクは修正しなければなりません。しかし、正解が一つではないことまで、自分の正解に合わせる必要はないはずです。
違いは、間違いではありません。
その違いの中に、その人らしさがあります。そして、その人らしさを磨いていくことで、やがて誰かには真似のできない強み、つまりオリジナリティへ育っていくのではないでしょうか。人を育てるとは、自分と同じ人をつくることではありません。その人にしかないものを見つけ、それが伸びていくことを喜べること。それもまた、「認める」ということなのだと思います。
6.「見てくれている」が、信頼を育てる
「最近、少し変わってきたね」
たった一言です。しかし、その言葉の奥には、「あなたのことを、ちゃんと見ています」というメッセージがあります。
これは、部下にとって想像以上に大きな意味を持つのではないでしょうか。人は、自分を見てもらえていると感じる相手には、少しずつ心を開きます。
困った時に相談する。
失敗した時にも隠さず話す。
自分の意見を伝えてみる。
上司も、その言葉を聴くことで、さらに部下への理解を深めることができます。すると、また新しい変化に気づく。
見る。
気づく。
言葉にする。
聴く。
理解する。
そして、また見る。
この循環が繰り返されることで、最初はほんの小さなコミュニケーションだったものが、やがて大きな信頼関係へと育っていきます。良い組織をつくろうとすると、私たちは制度や仕組みを考えます。
評価制度を整える。
面談制度をつくる。
会議の仕組みを変える。
もちろん、どれも大切です。しかし、それだけで人と人との信頼が生まれるわけではありません。日常の中にある、
「最近どう?」
「ここ、変わったね」
「どうしてそう考えたの?」
「なるほど、そういう考え方もあるね」
そんな小さな言葉の積み重ねが、組織の空気をつくっていくのだと思います。私たち共創ソリューションズも、仕組みや制度だけを見るのではなく、その奥にいる一人ひとりに目を向けたいと考えています。
答えを押しつけるのではなく、まず話を聴く。
小さな変化を見つける。
違いを尊重する。
そして、それぞれが自分らしい力を発揮できる関係を一緒につくっていく。
良い組織とは、大きな制度によって突然つくられるものではなく、小さな「見ていますよ」の積み重ねから育っていくものなのかもしれません。
人は、自分自身のことを一番よく知っているようで、案外そうではありません。毎日少しずつ変わっているからこそ、その変化には自分では気づきにくいものです。そんな時、
「最近、少し変わったね」
「前より、自分の考えを話すようになったね」
「周りを見るようになったね」
誰かからそんな言葉をかけてもらうことで、初めて自分自身の成長に気づくことがあります。そして、その一言が、「自分は少し前に進めているのかもしれない」という、小さな自信につながっていく。だからこそ、気づいたことは、できるだけ言葉にしたいものです。
「言わなくても分かっているだろう」
「きっと本人も気づいているだろう」
そう思っていても、心の中にあるだけでは相手には届きません。
信頼していることも。期待していることも。成長を嬉しく思っていることも。
察してもらうのではなく、言葉にして届ける。
ほんの短い一言でいいのだと思います。ただし、「よくできた」「素晴らしい」と評価するだけではなく、「ここが以前と変わったね」と、具体的な変化を伝える。そして、「どうして変えてみようと思ったの?」と、もう一歩だけ踏み込んでみる。そこから生まれる会話には、評価面談や人事制度だけでは決して拾いきれない、その人の想いや葛藤、工夫が隠れているかもしれません。その言葉を聴くことで、上司自身もまた、その人をもっと深く理解できるようになります。そして、もし自分とは違う考えが返ってきたとしても、すぐに正そうとしない。「なるほど、そう考えたんだね」と、一度受け止めてみる。違いは、必ずしも間違いではありません。むしろ、その違いの中に、その人にしかない可能性が隠れていることがあります。人を育てるとは、自分の正解に近づけることではなく、その人らしい答えを見つけていく過程を支えることなのかもしれません。
だから、任せる。
でも、放っておかない。
口を出しすぎない。
でも、目を離さない。
小さな変化を見つけたら、それを言葉にして返す。そして、また話を聴く。そんな何気ないやり取りの積み重ねが、「自分のことを見てくれている」という安心感を生み、やがて、「この人には自分の考えを話しても大丈夫だ」という信頼へ変わっていくのだと思います。良い組織は、立派な制度だけでつくられるものではありません。
日々交わされる小さな言葉。
相手の変化に気づく眼差し。
違う考えを受け入れる余白。
そして、人の可能性を信じる気持ち。
そうした目には見えないものの積み重ねが、組織の土台をつくっていきます。私たち共創ソリューションズも、目に見える成果や仕組みだけではなく、その奥にある一人ひとりの小さな変化を大切にしていきたいと考えています。
人を変えるのではなく、その人の中ですでに始まっている変化を見つける。
そして、その変化を本人にも見えるように、そっと言葉にして返す。
見守るとは、変化を見つけることである。そして、
認めるとは、その変化に光を当てることである。
その小さな光によって、本人もまだ気づいていなかった可能性が照らされる。
「もう少しやってみよう」
「次はこんなことにも挑戦してみよう」
そんな新しい一歩が、そこから始まるかもしれません。
人の可能性を信じるのであれば、その可能性が芽を出した小さな瞬間を見逃さない。そして、気づいたのなら、心の中だけにしまっておかない。言葉にして、届ける。その一言が、誰かの次の一歩を育てることもあるのだと思います。
